妊娠高血圧症候群(PIH)

妊娠中毒症と妊娠高血圧症候群の違い


以前は、妊婦が高血圧・たんぱく尿・浮腫を示した場合を「妊娠中毒症」と呼んでいました。 その「妊娠中毒症」と呼ばれていた病態が、現在では高血圧が最も重要な症状と認識されるようになってきました。2005年4月、妊娠中毒症は「妊娠高血圧症候群(pregnancy induced hypertension:以下PIH)」への名称変更と共に、定義の改変が行われました。

妊娠高血圧症候群(PHI)の定義


妊娠20週以降に、はじめて血圧が140/90mmHgにいずれかを越えた場合にPIHと診断されます。
①病型分類

妊娠高血圧腎症 妊娠20週以降に初めて高血圧が発症し、かつタンパク尿をともなうもので、分娩後12週までに正常に復するもの。
妊娠高血圧 妊娠20週以降に初めて高血圧が発症し、分娩12週までに正常に復するもの。
加重型
妊娠高血圧腎症
高血圧症が妊娠前あるいは妊娠20週まで存在し、妊娠20週以降にたんぱく尿をともなうもの。
高血圧とたんぱく尿が妊娠前あるいは妊娠20週まで存在し、妊娠20週以降に、いずれか、または両症候が増悪するもの。
たんぱく尿のみを呈する腎疾患が妊娠前あるいは妊娠20週までに存在し、妊娠20週以降に高血圧が発症するもの。
子癇 妊娠20週以降に初めて痙攣発作をおこし、てんかんや二次性痙攣が否定されるもの。発症時期により妊娠子癇・分娩子癇・産褥子癇とする。

※もともと高血圧があって、高血圧のみが増悪した場合は定義に含まれません。

②症候による病型分類

  血圧 タンパク尿
(原則として24時間尿を用いた定量法で測定)
軽症 140/90mmHg以上、
160/110mmHg以下
300mg/日以上、2.0g/日未満
重症 160/110mmHg以上 2.0g/日以上

③発症の時期による病型分類

早発型 妊娠32週未満に発症(early onset type : EO)
遅発型 妊娠32週以降に発症(late onset type : LO)

どんな人がなりやすいの?


PIH発症は母児に大きな影響を及ぼし、双方にきわめて重篤な合併症が起こる恐れがあります。
初産婦、平均血圧≧90mmHg、多胎妊娠、高齢妊娠、高血圧家族歴、糖尿病、前回PIH妊娠、腎疾患合併などが見られる場合に、PIHの発症頻度が上昇しやすくなります。
リスク因子がある場合には、PIHの発症に十分に注意する必要があります。

予防と治療法


①生活

・安静
・ストレスは避ける
<予防には軽度の運動、規則正しい生活が勧められる>

①栄養
非妊娠時の体格に応じたエネルギー摂取基準や塩分、水分、たんぱく質の摂取基準が示されています。

エネルギー摂取
・非妊娠時BMI24未満の妊婦 : 30kcal×理想体重(kg)+200kcal
・非妊娠時BMI24以上の妊婦 : 30kcal×理想体重(kg)
<予防には妊娠中の適切な体重増加が勧められる>
   BMI<18では   10~12kg増
   BMI18~24では  7~10kg増
   BMI>24では    5~7kg増
塩分摂取
 7~8g/日程度とする(極端な塩分制限は勧められない)
<予防には10g/日以下が勧められる>
水分摂取
1日尿量500ml以下や肺水腫では、前日尿量に500mlに加える程度に制限するが、それ以外は制限しない。
口渇を感じない程度の摂取が望ましい。
タンパク質摂取
理想体重×1.0g/日
<予防には理想体重×1.2~1.4g/日が望ましい>
動物性脂肪と糖質は制限し、高ビタミン食とすることが望ましい
<予防には食事摂取カルシウム(1日900mg)に加え、1~2g/日のカルシウム摂取が有効との報告もある。また、海藻中のカリウムや魚油、肝油(不飽和脂肪酸)、マグネシウムを多く含む食品に高血圧予防効果があるとの報告もある>

適切な体重、適切な栄養摂取がPHIの予防に有効です。
特に妊娠中は、偏りのない適切な量の食事をとるように心がけることが大切です。